岡本 里栄 個展「They」
会期|2020年09月25日(金)ー 10月12日(月)
時間|12:00〜19:00 最終日-17:00
休廊|火・水・木
会場|GAMOYON Gallery
〒536 – 0004 大阪市城東区今福西 1 – 3 – 23
個展「They」について
わたしをわたしとして規定することはとても難しいことです。 難しいと言うより 生物学的に突き詰めると自己を立証することはできないそうです。
しかし、わたしたちは個々に存在して自己を承認して生きています。 哲学者の 鷲田清一氏は「想像された自己の身体像こそがわたしたちが身にまとう最初の 衣服であるとすると、衣服はもはやわたしたちの存在の覆いなのではありませ ん。それなしにわたしたちはじぶんの存在を確定できないわけですから、それ はむろん、わたしたちの存在の継ぎ目ないしは蝶番とでも言うべきものです。」 と著書の中で述べています。
明確な輪郭を持たない身体は衣服が存在の継ぎ目になり、曖昧ながらもわた しをわたしたらしめるのです。その衣服が身体から離れたとき、そこには身体は 存在するのでしょうか。
当然、脱ぎ捨てた衣服に私の身体は触れてはいないのですが、その抜け殻に なった衣服にはどうも身体がまだ共に在るような気がしてならないのです。 着ていた痕跡が残っている衣服はわたしだったか、今もわたしなのか。 線を引くことの難しい境界を探るように抜け殻としての衣服を描いています。
今年3月に開催した個展「Cast-off skin」で上記の文章を書きました。抜け殻 としての衣服は、まだ誰かの一部として在るのではないかと考えて描いています。 今回の個展のタイトルは「They」としました。言葉は生き物で日々変わり続け ています。英語では第三者を表す単数形の代名詞として性別を限定した“She” や“He”を伝統的に使用してきました。近年その二つの性のどちらでもない性の 形としてノンバイナリー(nonbinary)と自認する人々が、自身を指すときに “they/them”を使ってほしいと発信してきました。英語の辞書でもノンバイナリー の人を表す単数形の代名詞として“they”に意味が追加されはじめています。
ただのものとしての布ではなく、人間存在の延長としての衣服や布をどのように 呼ぶのかを考えていました。“She”や“He”のように男女として二元論的に捉えるの ではない存在のあり方を示す言葉としての“they”は抜け殻としての衣服を指す言葉 としてもしっくりくるように感じています。
※引用文献:鷲田清一 著(2012)「ひとはなぜ服を着るのか」筑摩書房